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This___な人 vol.1

塚本亜紀さん

(ライター 西原章)



This___という店が好き。

センスのいいものが並ぶグレーの店内はひんやりと陰影があってクールにも見えるのだけど、迎えてくれるスタッフはいつもとても温かい。何が好きかってオープンから四年間、いつ行っても必ずワクワクさせてくれるところ。


このワクワクの源は、This___のオーナー・唯起子さんのピュアな好奇心だと思っている。興味を持つこと、好きになることを子どものように純粋に続けている人だからこそ、作り手の人たちも信頼してお店作りに参加するんだろうな。

そもそも、このセンスの店を商店街のど真ん中で始めた彼女のこと、信頼せずにはいられない。


そんな常連客である私が、今回から「This___な人」というテーマでイベントの作り手の方やお客様、This___に関わる人々とThis___を繋ぐストーリーをインタビューさせていただくことになりました。この店で私が感じるワクワクが、読む方にも伝わりますように。


 

今回、vol.1としてインタビューをお願いしたのは、今月(2021年6月)This___でPOP UPを開催するMOON TREE PLANETの塚本亜紀さん。




私自身以前から、亜紀さんの作る服と彼女その人のファン。

インタビュー? ちょっと恥ずかしいじゃん!と笑う亜紀さんをみんなで囲んでみたら…

素敵な服たちは、パワースポットみたいな彼女がこれまで築いてきた“人とのあたたかい繋がり”の結晶なんだ、と知ることになりました。





出会いが呼んだ強い流れに乗るうちに、デザイナーに


―MOON TREE PLANETという会社を立ち上げて、いくつかのブランドを展開されていますよね。今のお仕事を始めたきっかけは?

始まりは今の私のビジネスパートナー、フランス人のロージーとの出会いから。

30代半ばまでずっとアパレルの販売員をしていたの。白金台にあるビオトープってお店に立ってたんだけど、その後退職して、しばらく子育てに専念する生活をしてたんだよね。


今5歳の息子が1歳半くらいの時に、その頃ハーブティーの販売を始めていた姉がイベントに出店することになってディスプレイを手伝いに行ったら、たまたま隣のブースでフランス人の女の子が素敵な服を売っていた。それが彼女、ロージーの作る『ROSEY STONE』ってブランドだったの。


彼女は子どもの頃から肌が弱くて、服の生地にも敏感な体質だったらしいのね。だから、自分が着られる肌に優しい生地を使った服を作り始めて、まわりの人にもシェアしていくうちにブランドになった。



―既にある『ROSEY STONE』というブランドをお手伝いするところからのスタートだったんですね。


そう。でもしばらくしてから『ROSEY STONE』のインラインとは別に、私がデザインしてロージーが制作まわりを担当する別注ラインが始まったの。


私自身ずっと服が大好きだったんだけど、子どもができたことで「着る」ことの勝手が大きく変わって、さらに服のことを考えるようになったんだよね。使い勝手とか着心地を無視できなくなったけど、やっぱり気持ちが高揚するファッション性の高いものが好き。両方のいいとこ取りをしたちょうどいいものってなかなか見つからなくて……それで、自分が着たいと思う服をデザインし始めた。


そしたら、できたものがまわりの人に共感してもらえて。ロージーも私との物作りを楽しんでくれたから、二人で作るものは『TOO』というブランドとして独立。今回This___に並ぶのが、そのサードコレクション。

同時期に『LITTLE』っていうバッグのブランドも始めたんだけどこれも、友達の職人に相談して、自分が持ちたいバッグをプライベートで作ったのがきっかけ。当時、ブランドバッグではなくて控えめだけどちょっと気の利いた、スタイルの”抜き”になるようなバッグを探してたんだけど、なかなか見つからなかったから……じゃあ作れないかなって。それを見たまわりの友達もすごく気に入ってくれて…。だから共感してくれる人に届けばいいなって想いがあって、近しき距離、小さな物作り、って意味を込めてブランド名は『LITTLE』に。

どれも目標を持って動いたわけじゃなく、強い流れに押されて気づいたら今、ここ。って感じ。私はひとりだと熱量が湧いてこないタイプ。まわりの人達が喜んでくれるのが嬉しい、みんなでやるから楽しい、っていうのが一番の原動力になる。美しい話になっちゃうけど(笑)。




着る人がキラキラする、高揚する服を作りたい

―ロージーとの共作である『TOO』って、具体的にどんなふうに作っているんですか?


彼女は今、インドネシアのバリ在住なんだよね。デザイン画を描くのは私で、制作は彼女の住むバリと、バンコク。メールと現物サンプルを輸送し合ってのやりとりで、遠隔で作り上げていってる。



―へえ! 遠隔のやりとりで細部まで完成度高い服が作れるのって、すごいですね。


ロージーとは基本的な感覚は阿吽で伝わるから、この状況でもできるんだと思う。


でも、私は四季のある東京に住む日本人で、彼女は旅するフランス人。基本的な感覚が似ているとはいえ国も環境も考えも違う二人が一緒に作るから、そのミックスが面白い。彼女から提案されたものには自分からは出てこない部分があって、そこに最初はザラッとした違和感があるんだけど、でもそれが面白かったりする。受け入れてみる、余白を残す、みたいな作業を心掛けてる。


結果、その違和感がすごく好きなポイントになったりするんだよね。自分で決めすぎない方が楽しい。二人でやるってそういうことだと思うし、彼女を信頼してるし、尊敬してる。



―二人の違いがインポートでもドメスティックでもない、『TOO』にしかないムードになっているんですね。亜紀さんはデザインを学んだ経験はあったんですか?


デザインに関してはアマチュア。全く学んでいなくて、それに英語も話せないからフランス人と仕事なんてハードル高すぎて無理無理!って思ってた。でも謎の度胸だけはあって(笑)、やってみたんだよね。それで形になったときに、かっこいいものができたなって達成感があったの。すごくワクワクした、楽しいなって。


やったことないけどやってみる、っていうアマチュアたちのパワーで出来上がるものってなんかいいな、好きだなって。学んでいないからこそ新鮮な発想があったり、足りないところがあるからとにかく頑張る、そうしたら想像以上のものができたりして、意外とユニークで力のあるものが仕上がっていくのかも、って。


もちろん形にするためにプロの力を借りるし、私に足りないところを補ってもらって、わからないことを教えてもらって。それでまわりも私もみんなが嬉しくなる物作りができている環境は、本当にありがたい。本当に人に恵まれていると思うし、私の財産だと思う。そこには感謝しかない。



―『TOO』の服は、着ると自分が素敵に見えて気分が上がるんですよね。だから何着も持ってるしよく着ちゃうんですけど、亜紀さんが目指しているのはどんな服作りなんですか?


そう思ってくれているのが何より一番嬉しいこと! 今の私が求めているのは、着た時に心地がよくて機能的な服、それでいてちゃんとファッションとして高揚する服。


試着室から出てきた人がキラキラしてるのを見るのがすごく好きなんだよね。だから自分もそんなふうに高揚する服を作りたいなって思ってる。可愛いと思って手に取って、でも試着したら全然似合わなくてがっかりすることってあるじゃん? それが一番悲しいよね。


だから、どんな人でも試着した時にちょっと自分が良く見えたり、気分が上がって自然に笑顔になる、がっかりしないでテンションが上がる服っていうか、そう感じてもらえるシルエットやデザインには結構こだわって作るかな。接客の現場に長くいたから特に強くそう思うのかもしれない。



―着る人の気持ちを何より大切にしているのが、すごく亜紀さんらしいです。デザインのコンセプトはあったりするんですか?


特になくて、自分がその時欲しいもの、まわりのあの人が着たらかっこいいだろうな、と思うものを作ってる。離れたところに向けた物作りはしていなくて、イメージできる身近な人が何よりのインスピレーション源。


具体的には、私は特別な日に着るものと日常に着るものを分ける必要はないと思ってて。いつでも気に入った服が着たいから、ヒールとヘアメイク次第でドレスアップできるワンピースを、日常でカジュアルにも着られるように洗える素材で作ったりする。子どもがいると汚すしね、すぐ洗える方がいい。旅にも持って行きたいし。


シーンレスである他にも、シーズンレス、エイジレス……いろんな垣根なく高揚する服が楽しめればいいなって。どうやって着るかを楽しんで欲しい。せっかく気に入って買っても特別な時にしか着られないんじゃ楽しめないし。


『TOO』ってブランド名にはいろんな意味を込めていて、ロージーと私の二人、ということでもあるし、あなたも私も、自分もまわりの人も、みたいな意味もある。アレにコレ足して、みたいな意味も。包容力のある言葉だよね。作っている服は誰にでも!ってものじゃないかもしれないけど、だからこそ共感してくれる人にはこちらも親近感が湧いちゃう。楽しんでもらいたいし、リピートしてくれると、あ!気に入ってくれたんだ嬉しい!って思う。





作る人も買う人も、健康的で満たされる物作り


―ロージーが生地にこだわっている話がありましたが、『TOO』の服は生地が本当に良いですよね。一見シンプルな生地が多いんだけど、何か違って見える秘密はどこにあるんだろう……。

インドの手織りの生地を使ってることが多いの。おじちゃんおばちゃんの職人が糸を撚って、ガッシャンガッシャンって織ってる。シルクなら、実は野生の蚕の繭から作っているし。



―野生の蚕!

一般的な養蚕で使われる蚕とは種類が違う野生の蚕がインドにはいて、森で桑の葉を食べて巣立っていった後の繭からできるシルク糸。それは100%エコロジカル。シルクもコットンも天然染色で、鉱物や草花以外にもアボカドの種とかからも染めたりするんだよ、面白いよね。生地に仕立てるのは手つむぎ手織り。


例えばこのシャツ(今回展示に並ぶシルクシャツ)は、制作の現地に昔からある手法のブロックプリントだし、服に仕立てていく工程も手仕事で成り立ってるんだよね。とても素晴らしい手仕事で、そんな背景がきっと服にオーラを宿してくれていると思う。



―とにかく服が素敵!って買ってたけど、素材も作る過程もエシカルの面から語れるものなんですね。


実はそうなんだけど、それはあまり謳い文句にはしてないのよ。あくまでもファッションとして作ってるから、エシカルプロダクトとしてじゃなく、ファッションとして気に入って手に取ってもらいたい。


真面目な話、そうして私たちが現地の方に仕事をお願いすることで素晴らしい手仕事が継承されれば、という思いもある。現地ではまだ、女性が収入を得て自立することが一般的ではない面があって。制作に関わる女性たちが、安定的に収入を得る環境を作る手助けができているのは、すごく幸せなこと。


日本で目の前にいるお客さんは、ただ服が可愛いって高揚して手に取ってくれて、実はそれが制作地の人たちの生活の向上に繋がってる。例えば服を縫ってくれている方の娘さんが、その仕事がきっかけで学校に行けるようになったよ、みたいな声をロージーから聞けたりするの。自分が満たされたら現地の人も満たされた、そんな循環ってすごく自然でいいなって。


それに、『TOO』は欲しいものが欲しい時に気候に合わせてあったらいい、って思って作ってる。ロージーも私も早すぎるファッションのサイクルには疑問があって。あるべき時にあるべきものがあり、手に渡って、なくなる。それが作る側にとっても着る側にとっても健やかだと思う。なるべくどこにも無理がなく自然でありたい、って思ってるんだ。


―素晴らしい。そんなアキさんの息子さんは今幼稚園年長さんですよね。インスタを見てると、いつもごはんもすごく美味しそう。どうやって生活を回してるんですか?

いやもう、本当大変だよね(笑)。時代は変わりつつあるとは言え、やっぱりまだ女の人ってやるべきことが多すぎる。共働きなのに、仕事から帰ってきて「ごめんね遅くなって今すぐごはん作るから!」って一回も座らずキッチンに立つのは私だけ……よく考えたらごめんねって何?って。謎のごめんねを炸裂させちゃうんだよね(笑)。


でも、歳を重ねて自分自身に決まりを作りすぎなくなった。前は忙しくてもヘルプが言えなかったけど、最近はまわりに助けを求められるようになってきたし、ごはんだって毎日手作りじゃなくてもいいじゃん、今日はもう無理だ~よし、食べに行くか!みたいな判断が楽にできるようになった。


結局は、仕事も母業も両方好きだから頑張るんだよね。会社を辞めた時点で、もう楽しくない仕事はしたくないっていう気持ちがすごくあったから。でも吹き出物はできる(笑)。あーもーほんと大変、って思うけど、両方好きで刺激的、どっちも手放せないから頑張ろって。両方にご褒美はあるしね。


 

最後にオーナー唯起子さんに、今回MOON TREE PLANETがThis___で展示することになったきっかけを聞いた。


「たまたまMOON TREE PLANETのことを知って、とにかくこの服が見たい!と思ってイベントに行ってみたのが最初です。そうしたらお洋服は想像以上に素敵だった上、亜紀さん自身のハッピーオーラが本当に最高で。この人の作るものは間違いない!って確信して、その場で何か一緒にやりたい!って口説いた気が(笑)。亜紀さんの作り出すものをどうしてもThis___のお客様にも見てもらいたかった!


今回のPOP UPでは『TOO』のお洋服、そして『LITTLE』のバッグも並びます。今回が初めてとなる『LITTLE』のバッグのセミオーダー受注会もThis___のために準備してもらいました。お客様自身で様々なカラーの中から組み合わせを選んでいただけます。私も今から楽しみ!」



いやー楽しみだね、と笑う亜紀さん。二人とも、本当に楽しそうに仕事するなあ、と見ていて眩しくなる。自分のワクワクに素直に、自分の“楽しい”を誠実に仕事に詰め込んでいる二人が企画する展示会はもうすぐ。きっと、高揚する一着に出会えるはず。



2021年6月 This___にて

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